なぜ今、デンシノベルを作るのか
現在、超水道はコンシューマー版『ghostpia シーズンワン』の続編にあたる『ghostpia シーズンツー』の制作を進めております。そうした状況下で、なぜ今一度「デンシノベル」をリニューアルしたのか。
一番の理由、それは「シーズンツー」制作に支障のない形で新タイトルを創り続けていくためです。
超水道は、iOS版『ghostpia』の制作開始(2014年)からSwitch / Steam版『シーズンワン』(2023年)のリリースまでに約10年の歳月を要しました。それは裏を返せば、10年にわたり新タイトルをリリースできなかった、ということでもあるのです。このことは、私たち超水道でも極めて重要な課題と捉えておりました。また『ghostpia』以前から超水道作品に親しんでくださっているファンの方々からも、折にふれて「叶うならば新作をリリースしてほしい」とのお声を頂戴してもいたのです。
この課題を解決するためには、制作にまつわる二つの要素を見直す必要がありました。
一つは「制作体制」、そしてもう一つは「作品形態」です。
まず、制作体制について。超水道は「ミタヒツヒト」と「蜂八憲」計二名のシナリオライターを擁するチームです。しかし、二人で一つのシナリオを合作するわけではありません。一方がシナリオを担当する時、もう一方は校正やデバッグなどの後方支援を担うことになります。
ミタヒツヒトがシナリオを担当するデンシ・グラフィックノベル『ghostpia』は、物語構想の大きさもさることながら、豊富な映像表現を特長とする作品です。それは言い換えれば、超水道の歴史上、今までになく膨大なリソースを必要とするプロジェクトでもありました。初代デンシノベルでのやり方が通じない部分も数多く、制作初期においては進行が滞ることもままあったのです。
こうした状況を打開するため、2017年より蜂八憲がシナリオライターから制作進行へ転任。デンシ・グラフィックノベルに適した開発フローを再整備し、制作を円滑に進められるようチーム全体で注力してまいりました。その営みは、昨年(2023年)の「ghostpia シーズンワン」のリリースというかたちで実を結び、またメンバー全員がそれぞれ「制作進行」としての役割を果たせるようにもなりました。
こうした背景のもと、蜂八憲は『ghostpia』の制作進行を退き、再びシナリオライターに帰任。かくして、ミタヒツヒトは引き続き『ghostpia シーズンツー』を手掛け、並行して蜂八憲が新タイトルを制作する──そうした「シナリオ2ライン体制」の座組がようやく整ったのです。
そこで、新作を展開するための作品形態として選ばれたのが「デンシノベル」でした。
先に述べましたように、デンシノベルは文庫本を意識したビジュアルノベルであり、シンプルかつコンパクトな造りが特長です。初期の超水道は「短編作品をできるだけ短いスパンでリリースする」ことをモットーとしており、その目的を果たすための器として発案された側面もあったのです。
ただ、現在の超水道が求めるレベルを考えた場合「そのままで十分」とは自信をもって言えませんでした。
「このまま新作を手掛けたとして『ghostpia』との両立は可能だろうか?」
そんな懸念があったからこそ、超水道は今一度「デンシノベル」を見直す必要があったのです。
ビジュアルノベルの開発において、制作工数を要する箇所は多々あります。シナリオ、ビジュアル、そしてサウンド──もちろん、それらはビジュアルノベルを構成する主要なファクターです。しかし、超水道において、これらの制作作業と同じくらい多くの工数を要していたのは、演出用のスクリプトであり、より詳細には「器」となるシステムの部分でした。その点、ghostpiaは最もシステムに工数を要した作品でもあったのです。それは、シンプルを旨とするデンシノベルにおいても決して例外ではありませんでした。むしろ素朴であるがゆえに、作品の雰囲気に寄り添ったユーザーインターフェースをその都度練り直していた、というのが実際のところなのです。
しかしながら、超水道の今後を見据えたとき、むしろ逆方向のアプローチをとるべきだと考えました。つまり、作風に合わせてシステムをチューニングするのではなく、いかなる作風をも受け止められるようにしなやかなシステムをひとつ用意する、という考え方です。
ゆえにこそ、新・デンシノベルは原点に立ち返り、文庫小説風のクラシックスタイルを磨き抜きました。そうすることで、最後の課題であった「制作工数の圧縮」──より具体的には「蜂八憲ひとりでデンシノベルを創り続けていく」ことも可能となりました。
「小説の器」というアートスタイル。それは超水道が「やりたかったこと」の結晶であり、同時に「これからも創り続けていく」ための解法でもあるのです。
なぜブラウザベースなのか
なぜ、慣れ親しんだiOSではないのか。そうでなくとも『ghostpia』が Nintendo Switch や Steam で展開するなか、同じくコンシューマー媒体でリリースする道もあったのではないか。そう不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
そうしなかった理由はシンプルです。できるだけ広く、多くの方々に知ってもらうこと──ひいては、触れてもらうこと。それこそが、今のデンシノベルには何よりも重要な目的であり、それを達成するためにブラウザ展開といたしました。
スマホは以前にも増して生活における「当たり前」の存在になりました。加えて、この10年間でWebを取り巻く技術も進歩し、ブラウザ間の挙動の差異も少なくなりました。iOSアプリを主軸にリリースしていた頃は「iPhoneユーザーではないので、他媒体にも展開してほしい」というお声を多く頂いておりましたが、そうしたご要望にお応えするためにも、ブラウザは今ならではの最適な手段だったのです。
なぜ無料なのか
これもまた、前述の理由によるものです。
できるだけ広く、多くの方々に知ってもらうこと──ひいては、触れてもらうこと。
そのために、このブラウザ版「デンシノベル」シリーズは、無料での展開とさせていただきました。
「デンシノベル」はきわめてシンプルな縦書きビジュアルノベルです。その素朴さは、私たち超水道が意図したものであり、同時にこだわりの部分でもございます。しかしながら、そうした「こだわり」の部分につきましては、実際にプレイいただくことで初めて伝わる部分も多いものと感じています。
だからこそ、実際に触れてもらうまでのハードルを、可能な限り下げることが大事だと考えました。
もとより超水道は、発足当初から無料・広告なしでの作品展開を主としてきました。できるだけ多くの方に触れてもらうこと、それにより様々な出会いと機会が生まれることを期待して、作品制作を続けて参りました。その極致として、現在のghostpiaのワールドワイドな展開があります。「デンシノベル」も同様に、これからの作品制作を通じた新たな出会い、そこから生まれる化学反応に期待しています。