小説? 電子書籍? ゲーム?
そのどれでもあるし、どれでもない──
「デンシノベル」は超水道が標榜する、あたらしい作品形態です。
文庫小説のクラシックな楽しさを、ゲームテクノロジーをベースに再構築。
作品世界を彩るのは、洗練されたエディトリアルデザインと美麗なイラスト。
耳を澄ませば、心地よい音楽が物語を盛り上げます。
スマホでもPCでも、片手ひとつで簡単に、自分のペースで読了(クリア)。
そこに時間制限や勝敗はありません。
複雑なアクションも、難解なパズルギミックも。
回収すべき分岐ルートだって存在しないのです。
通勤・通学途中の電車の中でも、まったり過ごしたい休日のリビングでも。
あなたの日常に、時には笑いを、時には涙を。
またあるときには、ほんの少しの勇気を与えられるよう、私たちは制作を続けています。
「デンシノベル」は超水道が提案する、あたらしい「小説の器」です。
文庫本が持つ伝統的な品格と、モダンなデジタル技術の調和。縦書きの美しいレイアウトデザインは、シックで落ち着いたユーザーインターフェースと共鳴し、たおやかに物語を包み込みます。
タップ・クリックで、ゆったりと物語の海へ漕ぎ出るように。
ページめくりモードで、広がる文章の水面をたゆたうように。
手触りは読み心地、ひいては小説の味につながるもの。だからこそ「デンシノベル」らしい触り心地を追求しました。スタイリッシュでどこか懐かしい、温かみのある質感が作品世界への没入感を高めます。
装飾はあえてシンプルに。だからこそ生まれる読み味がある。
物語をより深く、豊かに楽しむための空間をここに。
「文庫本」と「ビジュアルノベル」の心地よいあわいをぜひお楽しみください。
デンシノベルはもともと、スマートフォン(スマホ)アプリを想定して作られたビジュアルノベルです。「超水道」が結成した2008年は、日本におけるスマホ普及の黎明期でした。
iPhone3Gが発売され、その翌年にはAndroidスマホが登場した、そんな時期のことです。ビジュアルノベルといえばPCでプレイするのが一般的で、スマホ向けの作品はほとんどない……そんな時代に、超水道は「スマホ向けのビジュアルノベル」に活路を見出しました。そして、プレイシーンを「電車やバスでの通勤通学のお供」と位置付けたのです。
スマホは電話機器である特性上「縦持ち」を想定されたデバイスです。しかしながら、ビジュアルノベルの一般的な形式は「横画面」。当時の空気感として「電車やバスでの通勤通学のお供」としてゲームや動画を楽しもうとする際、「横持ち」にはしづらい空気感がありました。加えて、混雑で座席に座れないといった場面において「横画面」は相性が悪かったのです。それを解決するコンセプトとして、縦長である「文庫本」のイメージを採用したのが始まりでした。
そうして2011年にリリースされたのが、デンシノベル第一作『森川空のルール』です。「スマートフォン上で絵と音楽と共に小説を楽しむ」をモットーに、文庫本ライクな縦書きUIを採用した本作は、各所からご好評をいただき、その後の作品スタイルの礎となりました。
また、その後の「デンシノベル」作品もiOSを中心に展開してきました。
スマートフォン上での展開に際してiOSアプリを選択したのには、大きく二つの理由があります。
ひとつは、当時はWebアプリだとブラウザや端末ごとの依存で動作が不安定になりやすく、ゆえにスマホアプリのほうが制作に適していたこと。ふたつめには、アップル一社が出しているiPhoneのほうが、各社が展開するAndroid端末に比べて機種依存の不具合が発生しにくく、制作コストを抑えやすかったためです。
これらの理由から、デンシノベルはいわば「iPhoneノベル」として出発したともいえます。そうした側面は「佐倉ユウナの上京」のキャッチコピー「iPhoneで読むって、きっとこういうこと。」にも如実に表れています。
超水道が『ghostpia』の制作をスタートさせたのは、2014年のこと。その際、本作のジャンル呼称を「デンシ・グラフィックノベル」と銘打ち、漫画的要素やアニメーションをはじめとした映像表現の強化に注力して参りました。
欧米ではメジャーなグラフィックノベルの表現を取り入れた「グラフィカルなビジュアルノベル」たる本作では、従来の縦画面から横画面へとスタイルを刷新。一見すると「デンシノベル」とはまるで別物に見えますが、その下地には「デンシノベル」で培った知見と経験が存分に活かされています。
いわば「デンシノベル」は「デンシ・グラフィックノベル」の故郷であり、「デンシ・グラフィックノベル」は超水道のビジュアルノベル的表現の新境地といえます。こうして歴代作品と同様にスマートフォンから出発した『ghostpia』は、幸いなことに機会にも恵まれ、巡りめぐってNintendo Switch / Steamでのコンシューマー展開へと繋がりました。
そして2024年。超水道は原点に立ち返り、文章主体の『デンシノベル』をリファイン&リニューアル。文庫小説風のクラシックスタイルを研ぎ澄まし、新たなる「読む」楽しさをお届けします。
現在、超水道はコンシューマー版『ghostpia シーズンワン』の続編にあたる『ghostpia シーズンツー』の制作を進めております。そうした状況下で、なぜ今一度「デンシノベル」をリニューアルしたのか。
一番の理由、それは「シーズンツー」制作に支障のない形で新タイトルを創り続けていくためです。
超水道は、iOS版『ghostpia』の制作開始(2014年)からSwitch / Steam版『シーズンワン』(2023年)のリリースまでに約10年の歳月を要しました。それは裏を返せば、10年にわたり新タイトルをリリースできなかった、ということでもあるのです。このことは、私たち超水道でも極めて重要な課題と捉えておりました。また『ghostpia』以前から超水道作品に親しんでくださっているファンの方々からも、折にふれて「叶うならば新作をリリースしてほしい」とのお声を頂戴してもいたのです。
この課題を解決するためには、制作にまつわる二つの要素を見直す必要がありました。
一つは「制作体制」、そしてもう一つは「作品形態」です。
まず、制作体制について。超水道は「ミタヒツヒト」と「蜂八憲」計二名のシナリオライターを擁するチームです。しかし、二人で一つのシナリオを合作するわけではありません。一方がシナリオを担当する時、もう一方は校正やデバッグなどの後方支援を担うことになります。
ミタヒツヒトがシナリオを担当するデンシ・グラフィックノベル『ghostpia』は、物語構想の大きさもさることながら、豊富な映像表現を特長とする作品です。それは言い換えれば、超水道の歴史上、今までになく膨大なリソースを必要とするプロジェクトでもありました。初代デンシノベルでのやり方が通じない部分も数多く、制作初期においては進行が滞ることもままあったのです。
こうした状況を打開するため、2017年より蜂八憲がシナリオライターから制作進行へ転任。デンシ・グラフィックノベルに適した開発フローを再整備し、制作を円滑に進められるようチーム全体で注力してまいりました。その営みは、昨年(2023年)の「ghostpia シーズンワン」のリリースというかたちで実を結び、またメンバー全員がそれぞれ「制作進行」としての役割を果たせるようにもなりました。
こうした背景のもと、蜂八憲は『ghostpia』の制作進行を退き、再びシナリオライターに帰任。かくして、ミタヒツヒトは引き続き『ghostpia シーズンツー』を手掛け、並行して蜂八憲が新タイトルを制作する──そうした「シナリオ2ライン体制」の座組がようやく整ったのです。
そこで、新作を展開するための作品形態として選ばれたのが「デンシノベル」でした。
先に述べましたように、デンシノベルは文庫本を意識したビジュアルノベルであり、シンプルかつコンパクトな造りが特長です。初期の超水道は「短編作品をできるだけ短いスパンでリリースする」ことをモットーとしており、その目的を果たすための器として発案された側面もあったのです。
ただ、現在の超水道が求めるレベルを考えた場合「そのままで十分」とは自信をもって言えませんでした。
「このまま新作を手掛けたとして『ghostpia』との両立は可能だろうか?」
そんな懸念があったからこそ、超水道は今一度「デンシノベル」を見直す必要があったのです。
ビジュアルノベルの開発において、制作工数を要する箇所は多々あります。シナリオ、ビジュアル、そしてサウンド──もちろん、それらはビジュアルノベルを構成する主要なファクターです。しかし、超水道において、これらの制作作業と同じくらい多くの工数を要していたのは、演出用のスクリプトであり、より詳細には「器」となるシステムの部分でした。その点、ghostpiaは最もシステムに工数を要した作品でもあったのです。それは、シンプルを旨とするデンシノベルにおいても決して例外ではありませんでした。むしろ素朴であるがゆえに、作品の雰囲気に寄り添ったユーザーインターフェースをその都度練り直していた、というのが実際のところなのです。
しかしながら、超水道の今後を見据えたとき、むしろ逆方向のアプローチをとるべきだと考えました。つまり、作風に合わせてシステムをチューニングするのではなく、いかなる作風をも受け止められるようにしなやかなシステムをひとつ用意する、という考え方です。
ゆえにこそ、新・デンシノベルは原点に立ち返り、文庫小説風のクラシックスタイルを磨き抜きました。そうすることで、最後の課題であった「制作工数の圧縮」──より具体的には「蜂八憲ひとりでデンシノベルを創り続けていく」ことも可能となりました。
「小説の器」というアートスタイル。それは超水道が「やりたかったこと」の結晶であり、同時に「これからも創り続けていく」ための解法でもあるのです。
なぜ、慣れ親しんだiOSではないのか。そうでなくとも『ghostpia』が Nintendo Switch や Steam で展開するなか、同じくコンシューマー媒体でリリースする道もあったのではないか。そう不思議に思われる方もいらっしゃるかもしれません。
そうしなかった理由はシンプルです。できるだけ広く、多くの方々に知ってもらうこと──ひいては、触れてもらうこと。それこそが、今のデンシノベルには何よりも重要な目的であり、それを達成するためにブラウザ展開といたしました。
スマホは以前にも増して生活における「当たり前」の存在になりました。加えて、この10年間でWebを取り巻く技術も進歩し、ブラウザ間の挙動の差異も少なくなりました。iOSアプリを主軸にリリースしていた頃は「iPhoneユーザーではないので、他媒体にも展開してほしい」というお声を多く頂いておりましたが、そうしたご要望にお応えするためにも、ブラウザは今ならではの最適な手段だったのです。
これもまた、前述の理由によるものです。
できるだけ広く、多くの方々に知ってもらうこと──ひいては、触れてもらうこと。
そのために、このブラウザ版「デンシノベル」シリーズは、無料での展開とさせていただきました。
「デンシノベル」はきわめてシンプルな縦書きビジュアルノベルです。その素朴さは、私たち超水道が意図したものであり、同時にこだわりの部分でもございます。しかしながら、そうした「こだわり」の部分につきましては、実際にプレイいただくことで初めて伝わる部分も多いものと感じています。
だからこそ、実際に触れてもらうまでのハードルを、可能な限り下げることが大事だと考えました。
もとより超水道は、発足当初から無料・広告なしでの作品展開を主としてきました。できるだけ多くの方に触れてもらうこと、それにより様々な出会いと機会が生まれることを期待して、作品制作を続けて参りました。その極致として、現在のghostpiaのワールドワイドな展開があります。「デンシノベル」も同様に、これからの作品制作を通じた新たな出会い、そこから生まれる化学反応に期待しています。
僕が「デンシノベル」と出会ったのは、2011年の夏のこと。当時の自分は、大学3年生──友人と「卒業制作」と称してビジュアルノベルを制作しようと意気込んでいた、ちょうどそんな頃の出来事です。学内で友人から「これ、すごいよ」と薦められるまま iPod touch へとダウンロードしたノベルアプリに、僕はそのまま心をがっしりと掴まれたのでした。
文章がよく映える縦書きのレイアウト。印象的な場面でさしはさまれる挿絵に、心地よく寄り添う楽曲の数々。気づけば僕は、大学のカフェテリアでそのまま物語を読了していました。その作品こそが、超水道の第一作である『森川空のルール』だったのです。
紙の本、電子書籍、そして、ビジュアルノベル。作品を構成するイメージは、いずれも当時の自分が慣れ親しんでいたはずのもの。なのに、そのどれでもない新鮮な読み味。小説が好きな自分にとって、その体験は一言で言えば衝撃的でした。ビジュアルノベルには、こんな作品形態もあるのかと。小説には、こんな魅せ方もあるのだと。
そして、心の底からこう思ったのです。
「自分も、こんな作品を創りたい」
「もっと『デンシノベル』を読んでみたい」
──その後、当の自分が超水道で「デンシノベル」のシナリオを書くことになるのですから、人生何があるか分からないものです。幸いなことに、自身のデンシノベル作品を契機として、これまで様々な創作の機会に恵まれてきました。「デンシノベルのおかげで、今の自分がある」。個人的には、そう言えるだけの愛着と恩義があるのです。
ゆえに『ghostpia』にて制作進行へ転任してからも、デンシノベルの存在は常に意識の片隅にありました。もしも、次に自分がシナリオライターとして再び超水道作品を手掛けるならば──そのときは、もう一度「デンシノベル」から始めたい、と。
僕の中での創作の原動力は、そうした「もしも」という想いでした。
それは『ghostpia シーズンワン』がリリースされ、制作進行からシナリオライターに復帰して以降も変わりません。「デンシノベル」を再始動させるにあたり、核となったのは二つの「もしも」でした。自然と思い起こされるのは大学3年生のあの夏、デンシノベルと邂逅した日のことです。
──もしも、あの時「デンシノベル」を使える環境にあったならば?
想像は過去へと遡ります。間違いなく、迷うことなく、自分は表現手段として「デンシノベル」を選び取っていた。自信をもってそう言えます。友人とふたり、スマートフォン上に流れる自分たちの作品を見つめながら、笑顔で互いに肩をたたき合う。そんな光景が、ありありと想像できるのです。
──もしも、あの時「デンシノベル」と出会わなかったならば?
想像は未来へと向かいます。おそらくは、東京から地元・福岡へUターン就職して、今とはまるで異なる人生を送っていたはずです。そこまでは分かるのですが、そこから先は分かりません。想像もつかない、というのが正直なところです。
それでも、確信をもって言えることが一つ。「デンシノベル」と出会っていなければ、僕はきっと創作を続けてはいませんでした。さらには、こうも思うのです。僕は、ビジュアルノベルはもとより、好きだった小説からも遠ざかっていたのではないかと。それは「書く」ことだけでなく──おそらくは「読む」ことからも。
どちらの「もしも」も、僕が辿れなかった過去であり、訪れなかった未来のこと。もっと言えば、「本来ならばそうなるはずだった」己の姿でもあるのです。だからこそ、そのうえで「もしも」と思うのです。
──もしも、彼らに「デンシノベル」を手渡すことができたならば、と。
「書く」こと、ひいては創ることの楽しみを、より身近に感じられるための器。遠ざかってしまった「読む」楽しみを、今一度思い起こさせてくれるような器。「書きたい」と「読みたい」双方の気持ちに応え、火を灯してくれるような……。次に目指す「デンシノベル」は、そういうものでありたいと考えたのです。
そうした思想のもと、新・デンシノベルは出来上がりました。
手前味噌ながら、デンシノベルは良いプロダクトだと感じています。文庫本のようなビジュアルノベルの風合いに、ぜひ触れて、楽しんでいただけましたら、これに勝る喜びはございません。
一方で、デンシノベルは「書く」ための器という意味合いにおいて、いまだ発展途上でもございます。まだまだ先のお話にはなりますが、将来的には、現在のデンシノベルをベースとした「汎用デンシノベル」を開発し、誰もが簡単に使えるようにすることを目指しています。そのためにまず、デンシノベルの認知度を高めていくこと。そして、できる限り多くの人に「デンシノベルっていいものだな」と思ってもらえるよう、作品を創り続けていく所存です。
道はまだ、始まったばかり。これからのデンシノベル、そして超水道にご期待ください。そして、宜しければ応援いただけますと幸いです。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
願わくば、僕の大好きなデンシノベルが貴方のお気に召しますように。